京都市中京区・五十弥
京都市中京区竹屋町富小路東入る 075-212-2560
定休日・月曜日と第三日曜日
営業時間・12:00〜14:30 17:30〜20:30
土日祝は11:30〜15:00
写真上:ざるそば、下:とろろそば
篠山の一会庵と仲好しの店だというので食べに行った。ざるソバ、おろしソバ、とろろソバを注文する。流れ星さんをまねして、まずは出汁も何もつけずにソバを食べてみる。通はこうしてソバの味をまずチェックするらしい。ソバの香りが口中に広がり、ほっとするようなしみじみとしたモードになり、頬がゆるむ。細めの麺だが十分なこしがある。出汁はしっかりと醤油を使った濃いめで、ほのかに甘さがある。京都だからと見た目の美しさで飾ることもない。素朴さと上品さが矛盾なく溶け合って、ああやっぱりお前が一番いい女やなあ、なによ今更そんなこと…と照れながら目を伏せるような奥ゆかしさがある。
10人も入ればいっぱいの小さな店で、ご夫婦でされているらしい。奥さんとあれこれソバ談義をしていると旦那さんも出てきて、越前ソバの話に花が咲いた。越前ソバというのは元々塩ソバがメインで、最近ではそれが廃れて醤油を使った出汁が一般的になってきたのだそうだ。塩ソバの出汁は、大量の昆布と塩と大根の絞り汁が入っているのだそうだ。あの独特の味は、出汁と塩だけではないとは思っていたが、まさか京都で塩出汁の秘密が聞けるとは思っていなかったので、大収穫だった。
この店でももちろんソバ粉は石臼でひくのだけれど、ひいた粉は何種類ものふるいにかけて分類し、それぞれに小さな袋に入れておくのだそうだ。ソバ打ちほど手間と時間のかかる物はない、店を開けている時間よりも準備の時間のほうが長くかかる、と語る奥さんの顔は、まるでままごとに熱中する幼子のように生き生きと輝いていた。
お二人ともソバ打ちが好きで好きでしょうがなくて、仕事にしてしまうしかなかったのだろう。
楽しい話をたっぷり聞かせていただき、ごちそうさまと店を出て戸を閉める拍子に店内を見ると、ご夫婦はそろって「ありがとうございました」と90度のおじぎをして下さっていた。その姿がいつまでも心に残った。