食べ日記 10
ここでは私が、あちこちうろついて食べ歩いたお店を紹介します。 by いずみ



2003.4月掲載


うのあん・こだわり親子丼



大阪市中央区南本町2-3-8 センタービル5号館北側
06-6261-0212 営業時間、午前11:00〜午後11:00

 流れ星さんと堺筋本町で待ち合わせをしたら、目の前にこの店があった。地鶏でこだわりの親子丼を作っているらしい。案内の看板を見ていたら、にわかにお腹が空いてきた。

 店内は和風モダンで、音楽はジャズ。カウンターとテーブル席が2つだったか、あと2Fがあるらしい。清潔で簡素で美しい店だ。2人とも地鶏の親子丼780円を注文した。つみれ汁はいかがですか、と言われて、200円だったので頼んでみた。
 すぐにつみれ汁がきた。ゆずショウガというのを少し入れるとおいしいらしい。つみれ団子が2ヶと白菜白ネギが少々入っている。まずそのまま飲んでみる。うま〜〜〜い!!!。口の中から食道胃袋が幸せになる。次にゆずショウガを耳かきスプーンで入れてみる。うま〜〜〜い!!!!。全身に幸せが広がる。これはうまい。当たりだ。
 つみれも、鶏肉の団子だと思ったら大間違いだ。上品なくせに庶民的な味で、歯の間からジュワッとお肉のジュースがこぼれてくる。私は子供に、産まれて初めてチョコレートを食べさせた時のことを思い出した。夢中で食べて、手の中にもうなくなったと気づいた時、キラキラと輝く瞳で期待をこめて私を見上げたものだ。おいしいものに出会った時の幸せと、食べればなくなるのだという当たり前の現実の悲しさと。そして娘は勢いで全部食べてしまわずに、少しづつちびちびと食べるように気をつけるようになった。
 わたしも、このつみれ汁がなくなってしまわないように、少しづつ食べることにした。
 私はこの店を見つけたお手柄をほめて欲しくて、流れ星さんの顔を見た。彼も十分に満足している様子なので、ほめてくれなかったけれど、それでもいい事にした。親子丼が来るのが待ち遠しい。

 やっと来た。赤い塗りのフタ付きの大きなお椀だ。そっとフタを取ると、湯気の暖かさとほんわかしたいい匂いが広がる。フワフワタマゴの上に白髪ネギがちょこんとあり、その上に球型のタマゴの黄身が乗っている。紅ショウガも添えてある。
 木のスプーンでなかなか潰れない黄身を崩して白髪ネギにまぶして、全体に散らしてみた。このタマゴもただものではない。
 文句なしにうまい。地鶏がまた不思議なおいしさだ。これは家でつくる親子丼とは全く別の食べ物だ。つみれ汁をすすり、フワフワタマゴの親子丼を口に運ぶ。うまい。鶏肉とは、タマゴとは、親子丼とはこんな味だったのか。知らなかった。じんわりと体中にあたたかな幸せな感覚がしみこんでいく。

 カウンターにいた親っさんらしき人に、根ほり葉ほり聞いてみた。地鶏はくせをぬいてうまみだけを残すために、前日からお酒やみりんや醤油や、いろいろにつけ込んでおくらしい。タイミングを見て汁を切り、今度は別の醤油ベースの出汁で下味をつける。そして注文を受けてからまた別の出汁で煮て、一人分3ヶのタマゴでとじると言う。めちゃめちゃ手がかかっている。
 これだけ手間暇をかけ、思いを込めたものが、1.000円程度の値段で食べさせてもらえるのだ。なんと太っ腹なのだろう。